18.2.22

カフェラテにアルコールを追加する

 友人がインスタにコーヒーの写真をアップしていた。年明けの冷え込んだ日だった。赤と緑のタータンチェックのクロスの上に、クリーム色のコーヒーカップに浮かぶコーヒーブラウン。その隣には、セリフ体のラベルに威厳がありそうなウイスキーのボトル。黄金色が満ちたはちみつのジャー。それらをうまいことミックスして飲むらしい。
 友人の感想は直接書かれていなかったが、その風景を掲載しようとして、実際にしていること、それ自体が答えだ。 

  高田馬場の雑踏からすこし外れたところに、フランスのカフェによく似た店があった。メニューには当時やっと耳慣れてきたカフェラテやカプチーノなどという文言が並んでいた。その頃は、駅前に怒涛の勢いで出店を始めたシアトル系カフェ、それを装った日本の喫茶チェーンの新業態の注文カウンターで、田舎から出てきた大学生が戸惑う風景がよく見られた。それよりもずっと前から、この店にはそういうものがあった。
 この店は酒も出すし、イベントもする。演劇やギャラリーのフライヤーが棚や壁にあふれていた。むしろ、あのころ大学生だった私よりも二回りほど上の世代には、カフェと言えばそういうものだったのかもしれない。そういえば、学生の仲間内ではビールと言えば中ジョッキだったけれど、ハートランドの緑色の小瓶の清楚な佇まいを知ったのもこの店だった。 

  私が一番好きだったのはアマレットカフェラテだった。ゆるく泡立ったミルクと程よく混ざったエスプレッソ、その底に層をなす甘みの強いリキュール。ガラス製の本体にステンレスの細いハンドルの付いたカップが、同じステンレスのソーサーにのって供された。マグでも紙コップでもない。実家でつかっていた陶器のカップアンドソーサーでもない。それだけで私は、なにか特別な場所にいるような気分になった。

 イギリスに留学したのはその後のことだ。コースメイトの友人の家に遊びに行っては、食事を作ってもらって、お酒を飲んで夜通しおしゃべりして、コーヒーにアイリッシュクリームを垂らしてもらった。深夜のマグカップに浮かぶ湯気。
 よくお邪魔したあの寮のあった一角は総取替となり、昨年末にはぴかぴかの学生寮がインスタグラムの大学アカウントによって何度となく紹介されていた。 

  さっきの帰り道、近所のコーヒー屋で豆を買うついでにラムラテを頼んだ。ミルクで苦味や酸味が和らいだコーヒーの薫香と、拮抗する甘み。それを下支えるアルコールの厚み。日差しはちりちりとさえ頬を刺すのに、タンブラーを握る裸の指先を滑る風にはまだ冬の凍てつきがある。いろいろな風景を思い出すのはそんな日だからかもしれない。

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