13.10.20

そうは言いつつも見続ける気がする。

 今期は「マリーミー!」というドラマを見始めた。主演俳優が以前子どもと見ていたニチアサ出演者というのが一番の理由だ。そんな弱い動機なので、二話放映の現在、すでに見続ける元気がない。

 少女漫画が原作の恋愛ものである。あらすじは次の通り。
 ニート保護法と揶揄されるおかしな法案のテストケースとして、主人公であるキャリア公務員の秋安が抜擢される。結婚によってニートに身分を与えようという目的で行われる、国家規模のお見合い政策だ。秋安の上司さえも法案そのものには否定的だが、成果を出すために受けるように迫る。出世欲の強い秋安は候補者として決められていたヒロインと婚姻届を提出し、ヒロインの家で同居を始める。知らないもの同士が結婚し、その後に恋愛感情を育むマリッジロマンスだ。
 脇のレギュラー登場人物に秋安の同僚がおり、一人は同期の出世頭で係長相当職に就いた元カノ、一人は隣の席の男である。隣の男は秋安の動向をスキャンダル記事でも眺めているような好奇心でのみ受け止めており、酔って秋安とヒロインの家に突撃してくる。そこについてきた元カノは、秋安に未練たらたらなので、ヒロインに離婚しろと迫る…のが次回以降の流れとなる。

「自己効力感の低いわたし」と「なんでももってる優秀な王子様」のパターンで恋愛物語を成立させるために、このトンチキとしかいいようのない設定がなされている。

 そもそも、この法案があまりにあまりの人権無視でおかしい。が、これは秋吉の上司が「わかってないやつらが言い出したこと」「失敗させて撤回させたい」という評価をしており、作中で否定しているのでまだいい。
 しかし、この上司は、秋安に飲ませるために「断ったら出世は見込めない」とパワハラで迫る。よくない。

 それより問題なのは、このヒロインがニートになった理由だ。彼女は祖父母と三人暮らしを長く続けてきた。具体的な年数は不明だが、あまりの外の世界のしらなさ、家族以外との交流のなさ(を一話二話で近所とのトラブルや、婚姻届を提出するのに寝間着にしているルームウェアのまま出かける場面、ホームセンターは行ったことがないなどエピソードで描いている)を考慮すると、相当の期間があったのではないかと思われる。昨今のヤングケアラー問題が頭をよぎる。彼女が相応の年齢で経験するべきことを取り上げられてきたのではないか、ひょっとしたら中卒ではないか、などの疑念が生まれる。
 祖父が先立ち、病床の祖母が孫のヒロインの将来を心配して、ニート保護法のモニターに応募したのだった。これが女孫ではなかったら同じ展開になったのか? というifも考えてしまう。
 ヒロインは祖父母のことを案じ、祖父母のためにだけ暮らしてきたため、最低限の生活能力はあるものの自分を押し殺して生きている。それを目の当たりにして、秋安はヒロインに対して「何かしてあげたい」と思い始める。曲がりなりにも結婚したのだから。
 という福祉のゆがみから生じた事態であるのに、二人の間のことだけに着目して問題解決を図ろうとする作劇の態度が気に食わない。

 だいたい、ここに出てくる登場人物の半分は官僚、しかもキャリア、元カノの職位からして30才前後だ。もっと広い視点を持ってしかるべき。百歩譲って、官僚機構のセクショナリズムから、秋安個人がヒロインのための真の支援を考えるのは難しいかもしれない(個人的には戦ってほしい)。

だから思うのは、どうして「キャリア官僚にした!?」 ちょっと生活に余裕がある一般人でよかったじゃん。モニターには友達との飲みの席での罰ゲームで応募したとか。

この先、

ニート保護法はやっぱりだめ
 →(問題なく婚姻届は提出しているので婚姻無効にはならないはずだが)結婚生活はとりやめを上司から言い渡される
 →仲が深まっていた二人は戸惑い、反発し、本当の夫婦になる

 という陳腐な流れが来ると思われる。それならきっかけが後ろめたいほど反動が大きくなり、恋愛は盛り上がるんだけど。
 そこはやっぱり「王子様」を配置したかったから、という理由が大きいのだと思う。 
 三話の予告を見る限り、少なくとも来週まではつまらない(あっ言っちゃった)人間模様でごちゃごちゃするんだろう(だって元カノ曰く秋安とつきあってたの二年前だよ?!)。

 とはいえ、全10話となるドラマシリーズだ。このあとの話数で社会問題にまで視野を広げていけたらこのドラマは化けると思う。
 物語が語ることは究極的には人間の生き方であり、そのシークエンスの中に葛藤があるからカタルシスも生まれる。
 その葛藤は本当に個人的なものだけ由来するのか。人間はさまざまな環境の中で形作られる。逃れられない社会の構造の中で自覚のないゆがみが生じているかもしれない。登場人物の掘り下げは価値観の解体ショーにほかならず、現代劇であれば同時代を生きる視聴者は価値判断を迫られる。画面の向こうで行われる解体を目の前にして、自分には絶対降りかからない火の粉を気楽に眺めるだけではいられないかもしれない。ただのテレビドラマなのに、痛みを感じてしまうかもしれない。だけど私はそこまで踏み込んだ物語を見たいのだ。


 なお秋安役の瀬戸利樹さんは、表す感情の解像度が高まっていてよい。前のヒモ役のときは笑顔に無理を感じたので、うまくなっている……と思った。本人の整った容姿からも正統派の王子様役が似合うので、配役としては合っているのではないか。パーソナリティとは異なっていたとしても、そこは役者さんだから。さすがだ。

 ただし、一話で出世のために結婚してしまうような野心あふれる言動をさせておきながら、ドライな人間像はそのあと出てこない。むしろヒロインのけなげさに心を寄せていく情の深い人物で、その結果ヒロインの心も解けている。よって人物像としてはちぐはぐになっている。作劇が悪い。