6.4.22

雨の日の東京の歩き方

その日は朝から嵐であった。

近年,四季がスムーズに移行しなくなっている気がする。気団の勢力が変わるごとに,境目が大荒れになっている。気温差が大きくなっているのかなと思う。地下鉄を降りて地下通路を進み,最寄りの出口を上がって歩道に出たとたんに,上着の襟元にしまわなかったスカーフが舞い上がって顔にへばりついた。

思い浮かべるのは,地軸の傾きが0になった地球の気候帯についてだ。太陽から年中同じ角度で光と熱を受けるので,最も太陽に近くなる赤道付近は灼熱,極はほぼ夜と雪と氷の世界となる。そこから帯模様に大気が渦巻き,境目は温度差のある大気が混ざりあって大荒れとなるという予想図を見たことがある。

傘をすぼめて風上に向け,速足で進む革靴の若者や,顔面を覆うしめった髪の毛を振り払いながら傘を支える女性など,難儀した人たちの一人として私も出勤した。

雨の日に傘をもって外に出るということはほぼなかった。だからふるまい方がわからない。特にここ半年は,徒歩10分強のスーパーマーケットに車で行くことを覚えてしまった。地下駐車場から地下駐車場へ。エレベーターのドアtoドアである。折り畳み傘しか持っていなくとも,この二年間,何も困らなかった。

満員電車の中では,ただでさえ全身が周囲の人にほぼ触れている状態なのに,濡れた傘をどう持っていればいいのかすら判断が難しい。私の通勤経路は都内有数のおしくらまんじゅう路線である。どうにもならないので,その日ばかりは一本電車を見送りホームの先まで歩いて,二分後の後続列車を待った。真ん中あたりの車両では三方べったり人に接触するところだが,さすが端っこの車両,自分の周りに数センチほどの隙間を確保できて,私は自分と扉の間に細く巻いた長傘を無事に納めることができたのである。